【インタビュー】石橋は、叩き割るまで叩いて意思決定: それでも私はアメリカへ渡り、挑戦する

体育の先生も考えた私が、アメリカで「スポーツマネジメント」に関わるために

スポーツ×長期的な設計で米国キャリアを作ったMTさんに聞く、夢の追い方設計図

スポーツが好きで、いつかアメリカで働きたい──。そう夢見る人に、MTさんのキャリアは「夢の追い方」の設計図を見せてくれる。日本の大学で体育教育を学び、教員免許を取得。その後渡米し、米国の大学でスポーツマネジメントと経済学の2つ目の学士を取得。日本を代表するトップアスリートのマネジメント会社の米国拠点でプロジェクトマネージャーとして日米をまたぐイベントを動かし、MBAを経てBIG 4へ。一見「大胆」なその歩みの裏には、驚くほど緻密な設計があった。

なぜ今、彼女の物語なのか。円安で留学費用が過去最高水準に達し、AIが若手の採用市場を塗り替えつつある。『英語も、お金も、年齢も不安』──そんな理由で一歩を踏み出せずにいる人、とりわけ女性やスポーツ出身の読者にとって、MTさんのキャリアは『夢と現実を両立させる順番』を示す、他には聞けない実例だからだ。そして日本人がつい意識してしまう「お金がないから」「英語ができないから」「女性だから」「体育会系だから」「年齢だから」という言い訳は、30代後半全力で挑戦するMTさんには通用しない。

Blueprint map Japan to US on desk

「大胆だね」と言われる私の、本当の性格

── 周囲から「大胆な人」と見られていませんか。

「よく言われます(笑)。でも本当の性格は真逆で、石橋を叩き割るまで叩くタイプなんです。セーフティーネットを常にいくつも用意して、プランGくらいまで準備してから意思決定をしてきました。」

その象徴が、最初の進路選択だ。本当は高校卒業後すぐに米国の大学へ行きたかった。だが彼女は、あえて日本の大学に進む。

「当時の自分には3つの懸念がありました。アメリカ留学を資金的に賄えないかもしれない。英語力の面・学業の面で卒業できないかもしれない。そして学位なしで帰国したら、仕事もなく人生のスピードも遅れてしまう。だからまず日本の大学でスポーツ科学を学び、教員免許も取って『最悪でも日本で食いっぱぐれない』状態を作ってから、渡米の準備を始めたんです。」

── 英語はどう準備したのですか。

「大学4年の夏休みから本格的に始めました。1年しっかり勉強すれば、学部入学に必要な英語試験のスコアは取れます。私の頃は紙と鉛筆の時代でしたが、今はAIとインターネットで圧倒的に効率よく英語力を伸ばせる環境がある。金銭的にも時間的にも、昔よりはるかに楽です。今の人は、この環境を使わない手はありません。」

「渡米するということは、『帰国するかもしれない』を常に同時に考えることでもあります。日本に帰った場合のシナリオを用意しておくことは、マストだと思います。」

大胆に見える人ほど、実は退路を緻密に設計している。『思い切り』とは性格ではなく、準備の量なのだ。思い切りと思われるのは、人生の節々の点だけを見ているからかもしれない。彼女の言葉は、留学の一歩をためらう人の『慎重さ』を、欠点ではなく武器に変えてくれる。

実際、その歩みは設計の連続だ。日本の大学で学位と体育の教員免許を取得し、渡米して2つ目の学士(スポーツマネジメント+経済学)へ。トップアスリートのマネジメント会社の米国拠点でプロジェクトマネージャーとして約2年半、日米をまたぐイベントを動かし、MBAを経てBIG 4にて約5年。『好き』で始めて『専門性』で自立する──その順番を、一段ずつ登ってきた。

3,000万円を「借りる覚悟」

── 留学資金は、どうされたのですか。

「全額、借金です。日本の学費ローンは金利が圧倒的に低く、留学に必要な資金は借りられます。問題はお金ではなく、その金額を借りてまで行く熱意と覚悟があるかどうか。仮に3,000万円を借りるとして、返済する覚悟がないなら、留学はしない方がいい。逆に覚悟があれば、アメリカで全力で頑張れるし、生き残って返済もできます。」

「お金は問題ではない。その金額を返す覚悟があるかどうか、だけ」

「大事なのは逆算です。1,000万円借りて年200万円ずつ返すなら、5年かかる。学費も生活費も、行きたい業界の平均給与も、調べれば分かります。いつまでに返せるかを計画して、その年数を自分がやり切れるのか。やり切れないと思うなら、やらない方がいい。」

『覚悟』という抽象的な言葉を、返済年数という数字に翻訳する。精神論で語られがちな留学の意思決定を、ここまで具体的な計算に落とし込む人は少ない。そしてその数字を見て、実際に判断をしている人がどれほどいるだろうか。

── 覚悟を決めた後は、何を準備すべきでしょうか。

磨くべきものは2つあるという。

「ハード面では、社会で通用するスキルを常に持っておくこと。ソフト面では、日本の家族や友人、恩師との関係を良好に保つこと。帰国する場合にも必ず必要になります。そして『自分は何年アメリカにいるつもりか、何をいつまでに達成したいのか』を持っておくと、プランも行動もぶれません。」

体育会は、武器になるのか

── いわゆる体育会出身であることは、キャリアにプラスでしたか。

「正直に言うと、社会に出れば『スポーツをやっていた』『体育会だった』は、それだけでは大きなアドバンテージになりません。周りも結構持っていますから。まず大事なのは、社会人としての身だしなみと第一印象。その土台の上に体育会の経験が乗ると、プラスになる。最初から前面に押し出す必要はないんです。」

「それより効くのは、『そのチームに足りないものを補う』という視点です。例えばBIG 4は優秀な人ばかりですが、コミュニケーションが得意でない人も多い。クライアントとのやり取りやスモールトークで信頼を得られれば、それだけで差別化できます。専門知識は、業界にいればいずれ身につきますから。」

専門知識は後から追いつける。だが、チームの弱点を埋める人間としての価値は、意識しなければ生まれない。体育会で培った対人力を『そのまま』押し出すのではなく、『相手の文脈』に翻訳して使う──それが彼女の言う差別化だ。

US professional athlete management office scene

スポーツの本場で働く、という夢のリアル

スポーツマネジメントを学びに渡米する日本人は多い。だが、業界の内側を見てきたMTさんが語る現実は、想像よりはるかに厳しい。

── スポーツマネジメントを学んで、そのままアメリカで働きたいという読者は多いと思います。実際のところ、どうなのでしょうか。

「アメリカでトレーナーやコーチとしてチームに入るのは、極めて難易度が高いです。大学院と資格の取得が大前提で、そこに語学力とビザの壁が重なる。日本人選手が所属するチーム以外に入れる可能性はほぼゼロですし、日本人がいるチームでも枠がないことは多い。だから多くの人は帰国して、これから海外に挑戦する選手の専属になり、選手と一緒に海外を目指します。ただ、この道も競争が熾烈で、可能性も当然100%ではありません。」

── アメリカに残ってスポーツに関わる道は、ないのでしょうか。

「あるとすれば、チケットセールスやアカウンティングといった『ビジネス機能』です。ただ、それでもビザをサポートするチームはほぼなく、実務経験も求められるので、卒業してすぐのフルタイム就職はほぼ不可能。インターンやボランティアが精一杯でしょう。だから現実的なのは、まずBIG 4や大手企業でビザと専門性と信頼を手に入れて、そこから近い分野へ転職を重ね、最終的にプロスポーツに関わるという長期戦です。」

スポーツ業界に限らず、米国でビザをスポンサーする企業は年々絞られている。だからこそ『ビザを出せる大企業で専門性を築き、そこから好きな業界へ寄せていく』という迂回路は、遠回りに見えて実は最短距離になり得る。その事を実体験で語ってくれる方はそういない。

「留学では常に『何をどこまで妥協できるか』を試されます。ビザのために好きではない仕事をする。給与が安くても我慢する。住みたくない都市に行かないといけない。何年なら大丈夫か、いくらなら大丈夫か──自分に問い続けることになります。それも全部、長期的な目標のためです。夢を見ることは大事ですが、本場アメリカで、英語も体格も違い、ビザもない日本人が仕事を得るのは本当に厳しい。それを理解した上で、道を設計してほしいんです。」

BIG 4という「戦略拠点」──AI時代の現実

── その長期戦の拠点として、BIG 4を選ばれた理由は。

「最大のメリットはビザです。H-1Bからグリーンカードまでサポートしてくれて、給与も高い。キャリアは『残って昇進を重ねる』か『外に出る』かの二択で、出るなら早い方がいい。年数が経ちすぎると、現場経験が薄いまま第三者としての経験ばかり増え、給与も高くなって、条件を落とさずに転職することが難しくなります。」

「特に今はAIによるレイオフもあり、ジュニアや新卒のポジションが減っています。キャンパスリクルーティングも、なくなっていくでしょう。AIに優れた指示を出せるかどうかは、結局その人の実務経験に左右されます。だから新卒がいきなりシニアに入るのは難しい。若手の採用市場は、今後さらに厳しくなると思います。だからこそ、専門性と実務経験を先に取りに行く順番が、これからはもっと大事になります。」

本メディアが報じてきた通り、米国ではエントリーレベルの採用が急速に細り、トップ校のComputer Science専攻ですら職探しに苦しむ時代に入った。『まず実務経験と専門性、それから夢の業界へ』というMTさんの順番論は、スポーツに限らず、AI時代のあらゆる業界の若手に当てはまる普遍的な戦略になりつつある。

「一発逆転の魔法はない。プランGまで準備、歩きながら道をつくる」

MTさんの10年余りの歩みに、一発逆転の魔法はない。プランGまでの周到な準備、明確な妥協点、そして譲れないもの。あるのは、その時々の「好き」と「必要」に正直に、学び直しと軌道修正を重ねた積み重ねだけだ。留学を迷う人は、つい「完璧な準備」が整うのを待ってしまう。だが彼女の歩みは教えてくれる──道は、考え抜いて選んだ方向へ、歩きながら一歩ずつつくるものだと。夢は短距離走ではなく、長期戦で達成するもの。その歩みの先で、彼女は必ずプロスポーツの大舞台に立つ。そう確信させられるインタビューだった。そしてこの記事を、かつての彼女と同じように『英語も、お金も、年齢も』と迷っている女性に届けたい。学び直しは回り道ではなく、キャリアの武器になる。今からでも、遅くはない。

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