「卓越した技能ビザ」O-1の日本人──誰が取っているのか、なぜ日本だけ増えないのか

1. 抽選も、上限も、ない
2026年より、H-1Bが賃金をベースとした抽選へ変わり、一番低い賃金レベルでの当選率は2026年3月に16%となった。また米国外からの申請には10万ドル手数料問題で揺れる今、静かに過去最高を更新し続けているビザがある。O-1──「卓越した能力(Extraordinary Ability)」を持つ個人のためのビザだ。抽選なし、年間上限なし、学位要件なし。2025年度(FY2025)の発給数は世界で20,015件と史上最多を記録した。そして日本からは、毎年400〜500人。本稿は、この「年間434人(2024年度)」が誰なのかを、数字と構造から解き明かしてみようと思う。
2. O-1とは何か──「天才のビザ」という誤解
O-1は2種類に分かれる。O-1Aは科学・教育・ビジネス・スポーツ分野の「持続的な国内外の評価」を持つ人。O-1Bは芸術・映画・テレビ分野の「卓越した業績」を持つ人。いずれも、主要国際賞(ノーベル賞級)があれば一発だが、実際の申請者のほぼ全員は、8つの評価基準から3つ以上を証拠で満たすルートを使う──受賞歴、メディア掲載、審査員経験、専門誌への執筆、重要な役職、高い報酬、などだ。
「ノーベル賞級が必要」は最大の誤解で、実像は「実績を書類として証明できる人のビザ」である。数字がそれを裏付ける。USCISの2025年度の審査では31,681件が判定され、承認29,733件──承認率93.9%。追加証拠要求(RFE)は約2割の案件に出るが、RFEを受けた後でも7割は承認されている。狭き門に見えて、ちゃんと準備した者には開くドアなのだ。なお審査は長期化しており、通常処理は12ヶ月前後。実務ではプレミアム処理(追加2,805ドル・15営業日で判定)がほぼ標準装備になっている。
3. 日本の30年──562人のピークと、434人の現在
次のチャートが示す通り、日本人へのO-1発給は1997年の137人から拡大を続け、2009年に562人でピークを打った。2010年代は450〜550人のレンジで安定し、コロナで240人(2020年度)、232人(2021年度)まで消滅した後、2023年度に507人まで回復。直近の2024年度は434人だった。

一見、堅調な回復に見えるが、世界の他国と並べると全く違う。世界のO-1が2016年度の15,918件から20,015件へと26%伸びる間、日本はピークの562人を15年間更新できていない。世界に占める日本のシェアは2009年の約4%から、今や2%強へ半減した。同じ期間、中国は10年で+181%(1,771件)、インドは+300%(1,632件)。日本はもはや上位10カ国にも入っていない(10位スペインは540件)。日本人の才能が枯れたのか?──DreamAcrossチームはそうではないと考えている。答えは、もっと構造的な場所にあるのではないか、と。
4. なぜ日本だけ増えないのか──「E-2」という答え
中国とインドのO-1急増には、明確な理由がある。両国は米国とE-1/E-2条約(貿易・投資家ビザの二国間条約)を結んでいない。だから起業家もエンジニアも、抽選のH-1Bを外すと、O-1Aがほぼ唯一の就労ルートになる。テック人材や起業家がO-1Aに殺到しているのだ。
日本は正反対だ。1953年から続く日米通商条約により、日本人はE-2(投資駐在員ビザ)を使える。その規模は圧倒的で、2025年度の日本人へのE-2発給は15,367件──世界全体の30%を占める断トツの世界一である。つまり、企業の駐在員も、投資して渡る起業家も、日本人はE-2やL-1という「太い正面玄関」から入れる。O-1という個人技の裏口に並ぶ必要がない。O-1日本434人 vs E-2日本15,367人──35倍の差が、この構造を物語る。
日本のO-1が「増えない」のは弱さではなく、E-2という代替路を持つ国の贅沢である。裏を返せば、日本のO-1保持者434人は、組織にも投資にも頼らず「個人の実績」だけで渡った、最も純度の高い挑戦者たちだと言える。
5. では、日本の434人は誰なのか
国務省はO-1AとO-1Bの国別内訳を公表していないため、ここからは制度の構造と業界の実務、そしてネットワークを経由して見える景色になる。日本のO-1には、伝統的に厚い2つの層がある。
- 「手に職」のO-1B層:寿司職人・シェフ、美容師・ヘアスタイリスト、アーティスト、アニメーター・イラストレーター、音楽家、ダンサー、デザイナー。共通点は「日本」というブランド自体が卓越性の証明として機能する職種であること。全米で拡大を続ける日本食市場・日本カルチャー市場が、彼らのスポンサー(雇用主・エージェント)基盤になっている
- 急拡大中のO-1A層:エンジニア、研究者、経営者、そしてスタートアップ創業者。H-1Bが賃金傾斜抽選と手数料問題で不確実性を増す中、「抽選のない就労ビザ」としてのO-1Aが、テック人材の現実的な選択肢に浮上している。F-1で在学中に起業し、卒業後の身分としてO-1Aを設計する留学生も増えている
そしてO-1には隠れた続編がある。永住権のEB-1A(卓越能力者の第一優先枠)は、O-1Aとほぼ同じ8基準を使う。つまりO-1の3年間で米国での実績──受賞、掲載、要職──を積み増せば、そのままグリーンカード申請書に転用できる。O-1は終着駅ではなく、永住への滑走路だと言える。言ってみれば、自分の業績・結果でもってして滞在を求める事になる。
6. 読者への実務──「実績の書類化」は今日から始まる
O-1を将来の選択肢にしたい人がやるべきことは一つ──キャリアの早い段階から、実績を「第三者が発行した紙」に変えていくことだ。コンテストに出て賞状をもらう。業界誌・メディアに取り上げられる(自分から売り込むのも有)。カンファレンスに登壇する。審査員を引き受ける。報酬水準を記録する。8基準のうち3つは、才能ではなく習慣で積み上がる。逆に、どれほど実力があっても書類にできなければ、このビザの前では存在しないのと同じである。
【結論】O-1は天才のビザではなく、「客観的に卓越した実績を証拠にできた人」のビザだ。世界が過去最高の20,015件へ伸びる今、日本の434人はまだ少なすぎる──E-2に乗らない個人の挑戦者にとって、この門は数字が示すよりずっと広く開いている。