MBAと起業:なぜそこまでリスクを取るのか

はじめに:米国MBAと起業

米国にてMBA(Master of Business Administration、経営学修士号)を取得したいという相談をよく受けます。その中でも卒業後に起業したいという声があり、今回はMBAが起業とどのように関係しているを定量的・定性的に、かつ実体験を含めて紹介します。自分自身が米国MBAにいた際から起業にフォーカスしていたので、周りの起業家同級生を踏まえた実情をお伝えできればと思っています。MBA取得後に起業を検討している人は、是非データポイントの一つとして参考にしてください。

MBAにおける起業関連リソース

  1. 授業

Harvard Business SchoolでもEntrepreneurshipがRequired Curriculumに入っている等、各学校で起業に関する授業は豊富にあり、ケースや起業家の話を踏まえて過去の起業例を学ぶには非常にいい機会となります。教授達も起業家には非常にサポーティブですので、起業を目指すなら関連した授業を受講することはマストとなるでしょう。

  1. クラブ

起業に興味がある在校生が所属するEntrepreneurship Clubといった学生クラブもどこのMBAにもあり、同級生・アラムナイ・スポンサー等とのネットワークを構築するには最適な場です。実際にほぼ全ての在校生起業家が入っているといっても過言ではなく、ネットワーク構築や同じような問題を共に解決しあっていく、大切な仲間たちと話せる場です。

  1. サマーインターンシップ期間

起業家を目指す学生は基本的には夏のフルタイムでのインターンを行わず、自分のビジネスを行ったり、夏や通年の学内アクセラレータでビジネスアイデアを実証します。フルタイムで自分のビジネスにコミットできる時間を取れるというのは非常に大きいと思いますが、その反面インターンでの収入を見込めなくなります。

  1. 学内外アクセラレーター

自分の学校が主催するプログラムの他、Berkeley SkydeckやRice Business Plan Competition等、学生・MBA学生である事で応募できるアクセラレーター等に応募する事で資金やネットワークをさらに拡大する事ができます。ビジネスプランをベースとしたアクセラレータが多いと思うので、実際に事業化できるのかという検証を行うのにはちょうどいい場です。一点だけ注意しなければいけない点としては、自分の経験ではアクセラレーターで入賞・評価されているスタートアップの中でも、実際に事業化・資金調達をできるのは20%以下となってきます。アクセラレーターでの評価はビジネスの実際の成功には必ずしも連動しないです。

  1. スタートアップエコシステム

各学校のロケーションにもよりますが、San FranciscoやBoston、Los Angelesでは特に現地の起業エコシステムが非常に発達しており、学外でのイベントやネットワーキング、アクセラレーター等も活かす事ができます。EventbriteでのイベントやBuiltin等は各拠点毎にあるので、スタートアップへのネットワーキングにも使えます。

  1. アラムナイネットワーク

MBAのアラムナイはもちろん、大学全体のアラムナイへもアプローチする事で起業家のネットワークや投資家にアプローチが可能です。卒業してもこのネットワークはもちろん利用可能ですが、在学時の学生としてが一番様々な人と話をするのに一番適していると思います。

MBAから起業を目指すに当たって、何が重要なのか

上記のように様々なリソースがある中で自分が起業家として最も重要だと感じるのは、ネットワークです。例えば事業実証のためのExpert Interviewを行ったり、専門家のアドバイスをもらう場合にはアラムナイにインタビューをする等、起業家として特にearly phaseでは、とにかく様々な人々からのアドバイスと意見を踏まえる必要があります。アイデア検証する際にこのネットワークは非常に重要です。自分では気づけないポイントを指摘してくれる事が初期修正の肝です。

もちろんネットワークがなくても、コールドコール(LinkedInやEmailなどで今まで関係がなかった人に連絡を取ること)のアプローチが可能であるものの、それでは時間がかかることと、必ずしも適切な人にたどり着けない可能性があります。様々な業界業種で活躍している専門家にアドバイスをもらえることは時間が最も重要である起業家として非常に重要なリソースです。このネットワークは言うまでもなく、その先に待つ資金調達における投資家紹介に関しても大いに役立ちます。自分の知り合いで、アラムナイをつたって、大学に大きな金額を寄付した、かなりビジネス経験豊富でシニアなアラムナイ(大学内の建物にだいたい名前がついています)へなんとかアプローチをした事でエンジェル投資を受けた、という例も聞いています。

米国ではLinkedInが使われますが、在学中には最低でも200名程までネットワークを構築できればいいと思います。この200名というのは、ただコネクトしている数ではなく、実際に自分がいつでもコンタクト可能や紹介につなげられるネットワークの数という意味です。そうする事で未知の領域に入ったとしても、たいていの場合その分野をカバーできるようなネットワークが構成されるからです。自分一人でできる事は限られていますが、様々な人に頼れる地盤を作っておく事は非常に重要だと思います。

日本からの米国MBA取得者数推移

ここで一旦日本からの米国MBA留学生推移を見てみます。いくつかの在校生と友人リソースから、だいたい日本人のMBA留学生の人数を把握したので、こちらに記載してみます。

毎年Facebookグループ等存在しますが、だいたい米国はこの年間120-150名程に近い数字で正しいと思います。留学生としての合計数は全体的に減少傾向にありますが、私費留学生の割合としては毎年だいたい30-40%の水準を維持しています。Class of 2022はコロナが直撃した時期であり、数としては底を打ち100人を切っていると思います。2022でDefer(翌年入学に繰越)をした人が相当数2023に入ったと認識しています。Class of 2025では年間約120名と、2000年代の200-250名の時に比べて、ほぼ半減している状況が見えます。

米国MBA学生の卒業後進路先

次に米国MBA卒業生の直近の進路を見てみます。東海岸、西海岸、中西部の学校を含めた米国の全体が見えるようにみていきます。各学校が出すEmployment ReportやCareer Reportをベースに起業家数を集計しました。一番高いのはStanford、その次にHarvardという結果になっています。他校の数字も合わせると、米国MBA学生からは平均して7%程が起業の道に進む事が見えます。

International/留学生の起業のイメージ

全ての学校が内訳を出してはいないですが、KelloggやBerkeley Haas、UCLAではこのうちのだいたい30-40%がInternationalになっています。この数字を元にInternationalの学生の中(どの学校でも約35~45%)での起業率を算出してみます。

  1. 全学生を100名とすると、7名の起業家が存在する。
  2. このうち、30%の2名がInternationalで残り5名がDomestic studentとなる。
  3. Internationalが40名、Domestic studentが60名とすれば、以下のように切り分けられます。

ユニコーン創出率

一例として、Poets & Quantsによれば約300社がMBA卒でのUnicornと言われていて、これらが過去20年に創出されたと仮定。USのMBA50校が各学校平均500名程と仮定して、50校*500名*7%起業*20年間=35000社からの割合は約0.8%の確率。

この中でユニコーン輩出のトップ校はHarvard Business Schoolであり、70社。この数字を上記計算に同じく用いると、1000名*13%*20年=2600社であり、確率は2.7%まで上がります。同じようにStanfordでは、38社。400名*25%*20年で2000社。確率は1.9%。

一般的なユニコーン確率は、ユニコーン数/創設企業数、計算されるので、

トータル米国では約1500社ユニコーンが存在する

新規創立者数は、5百社*20年間で一億社

この割合で考えると、1500/100M=0.0015%

ベンチャーキャピタリストや投資家の視点からすると、ランダムな投資とMBA起業家への投資では成功確率が圧倒的に違う事が見て取れます。

一点注意する点としては、この評価軸にはミリオネアや中規模での会社売却は入っておらず、MBA卒業生ではこういったレンジは相当数います。世間一般にユニコーンが注目されがちですが、会社売却で数十億円を手にしたMBA卒業生はとても数が多く、このような実態を踏まえるとMBAでの経験やネットワークは起業に役立つともいえるでしょう。

気になる日本からの起業家数

先ほどのInternationalの学生の中での起業率5%から想定される日本人起業家数from米国MBA留学生は6-8名/年(120-150名×5%)となりますが、実感としては年間に1-3名といった印象ですので、平均よりは低いのではないかと思っています。もちろん、MBA以外の専攻やPhD、学部生をいれるとさらに多いと思いますが、ここでは同級生のイメージを紹介します。

自分の在学中実体験を踏まえると、だいたい同級生のイメージとして100名学生がいるとすれば

  1. 起業家クラブにひとまず興味ある→40-50名入る
  2. 夏にも事業を作り上げる→10名くらい
  3. その後も継続的に事業に取り組む→6名くらい
  4. 卒業時にも事業に取り組む→5名くらい
  5. 卒業後1年後→2-4名くらい
  6. 資金調達完了→だいたい1-2名くらい
  7. 自己資本でねばる→残りの1‐2名くらい

Internationalの学生ではさらに少ないのが実態かと思います。

  1. 自分の代で起業家は2名/300名、1個上では1/300
  2. 他校でも一桁台であるという認識
  3. 母国へ帰国しての起業は比較的多い気がする
  4. 自分の同級生で起業家になったのは自分を含めた2名のみ

MBA卒業後の起業における最大のハードル

  • 資金面:学費や生活費に伴う借金

通常就職するとだいたい給与レンジは$150-250Kが平均であり、卒業後のローン返済を考えると非常に金銭的に厳しくなるのが起業家です。卒業のタイミングで同級生がサインオンボーナス等で旅行をしている中、当然我々起業家組は節約した生活で仕事に奔走することになると思います。資金調達を卒業後にすぐできるか、という確度も各々重視しています。

  • 業務とタフさ:実際の起業における業務はMBAで学ぶ事と非常に乖離

実際に起業するとMBAで学んだことが活かせる場面とそうでない場面があります。たとえばキッチンでのオペレーションの効率化、といった観点は授業で学んだりしますが、実際にやってみると全く紙に書いてある事と違うという実務に直面します。そもそも電気がつかない、想定していた機械設備が使えない、水が止まった、などなど。一般にMBA卒業後に行うとされる業務からは大きくダウングレードし、給与がない事の実情を理解しなければいけません。

  • Visa面:留学生起業家として米国でのVisa事情

上記以外に、Visaの問題がとり挙げられる事はあります。しかし、起業家としてのメンタリティがあればこの点はクリアできるので特段ハードルではないと感じています。実際にプロダクトマーケットフィットを検証して、売上と利益創出、投資家から資金調達を行う事の方がはるかに難易度は高いです。

また語学力を懸念される方もいますが、MBAで入学・卒業できる英語力があれば起業は十分可能であると考えています。繰り返しになりますが、ビジネスとしてのコンセプト検証と顧客獲得の方がはるかに難しい事です。

 最後になりますが、自分の周りでも日本からの留学生で起業に取り組んでいる同志が増えてきている事は非常に心強く感じています。何一つ簡単な道ではないですが、同じ志を持って頑張っていく「同志」をDream Acrossでは全力で応援します。我々の同志にはMBA取得後に起業をしている有志(日本のみならず、他のInternationalやDomestic)が多々いますので、本件に伴う相談は気軽にお問合せを頂ければと思います。

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